日本が冬の頃には暖かい東南アジアで過ごし、春になると日本列島に渡ってきて子育てをする。そして、秋には再び東南アジアに渡るタカの仲間がいる。その代表的なタカが、サシバとハチクマだ。東日本にいたサシバとハチクマの一部は9月の下旬に琵琶湖の湖東を通り、京都盆地を通過して西へ向かって飛んで行く。たくさんのタカが天王山や西山の上 空を渡っていくんだ。
2009年の9月だった。ベランダから天王山の方角を見ると、稜線に10羽ほどのカラスくらいの大きさの鳥が、クルクルと旋回しながら飛んでいた。その集団はしだいに高度を上げて、山を越えて見えなくなった。それは僕が初めて見た、サシバの渡りだった。
インターネットでいろいろと調べると、長岡京市の西山公園体育館でタカの渡りが見られることがわかった。体育館の屋上に上がると、ひとりぽつんと双眼鏡で空を見上げている人がいた。その方は日本野鳥の会京都支部の会員で、渡ってくるタカをカウントして記録されていた。そして、何も知らない僕にタカの渡りのことを詳しく教えてくださった。これが僕のタカの渡り観察の始まりだった。お話を伺いに通ううちにタカの渡りの魅力にとりつかれ、秋の渡りを毎年ここで観察するようになってしまったんだ。
西山公園体育館は京都盆地の南西に位置し、西山地域の小高いところに建っている。屋上から東の方をながめると、京都の市街地が一望できる。京都盆地を東から西へと渡ってくるタカを見るのにちょうど良い場所だ。駐車場と清潔なトイレ、飲み物の自販機もある快適な観察ポイントだよ。ただ、有名な観察ポイントに比べると、渡ってくるタカの数はかなり少ないけどね。
飛んでくるタカを探すのは、肉眼と双眼鏡でひたすら空を見る単純な作業だ。主に東の方角を見ながら、北や南の空も見る。背後の山の上空もチェックしないといけない。まとまって渡ってくればカウントに大忙しだけど、実際は目が疲れるだけの退屈な時間が圧倒的に多い。いや、いっしょに見ている人との雑談の時間の方が多いかな。
野鳥が好きな小学生の男の子が、双眼鏡とカメラを首から下げてタカを見に来てくれたことがあるんだ。大人たちといっしょに一生懸命タカを探してくれた。ほとんどのタカは体育館の上空を高く飛んで行く、ゴマ粒みたいに小さく見えるものばかりだ。翼の模様を肉眼ではっきり確認できるほど低く飛ぶことはめったにない。タカを間近に見られると期待していた男の子はガッカリしただろうな。でも、これからもずっとタカのことが好きなら、いつかきっとタカの渡りの魅力がわかる時がくるよ。渡っているタカの中には、日本列島のどこかで今年生まれた幼鳥もいるんだ。生まれて初めて行く、遠い東南アジアの越冬地を目指して、山を越えて海を渡り、壮大な旅をする幼いタカたちを見たことだけは、忘れないでほしいなあ。
【補足説明】
■サシバ
大きさはカラスくらい。水田周辺の里山に営巣することが多い。カエル、トカゲ、ヘビや昆虫を食べる。
■ハチクマ
大きさはカラスより大きく、、トビくらい。樹上、地中にあるスズメバチ類の巣から幼虫やさなぎを好んで食べる。ハチ以外にカエル、昆虫、小鳥も食べる。
【参考図書】
「タカの渡り観察マニュアル」
久野公啓（著） 文一総合出版
タカの種類と識別、渡りの観察などについて詳しく知りたい人におすすめします。
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