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後鳥羽院営む水無瀬離宮に頻繁に訪れた歌人・藤原定家や周りの 公家たちの儀式儀礼から公私にわたる事件まで、今なら炎上しそう な言動も交えて綴った日記から、公家社会を垣間見る第10話。
いよいよ最終話です。
義時を討て
定家が院の逆鱗にふれて蟄居の身となっている間に、寵姫伊賀局の荘園をめぐる後鳥羽院と義時の問題はさらにエスカレート。
院とその周辺では、義時追討と倒幕へと意見が傾いていきます。
承久3(1221)年4月。突如、順徳天皇(以降「新院」)は4歳の仲恭天皇に譲位。そして5月15日、ついに院は義時追討を決意。幕府に情報が漏れることを危惧して、親幕派で関東申次の西園寺公経と息子を監禁し、挙兵。将軍として息子を鎌倉に送った摂政道長や蟄居の身の定家は、中立の立場を取ります。
対する鎌倉幕府。時房(義時弟)と泰時(義時息子)が大軍で出陣。世にいう承久の乱です。
それぞれの旅立ち
乱は幕府軍が1カ月で鎮圧。院は隠岐、新院は佐渡へ配流に。中院は倒幕に直接関わりがなく処されませんでしたが、中院みずから配流を希望。土佐へ向かいます。
関わった公卿たちも流罪や斬罪、謹慎を受ける一方、院たちに寵愛されていた為家は、配流の日に見送りはしたものの供奉することはなく、乱の年に義父となった鎌倉の御家人・宇都宮頼綱や幕府の信任を得ていた叔父の公経のお陰か、父の定家を超えて出世していきました。
届かぬ思い
院たちの罪が許されて都に戻れる機会が2度あり、そのたびに定家は院勘を解かれて院と会うことを切に願っていましたが、鎌倉が許すことはありませんでした。
定家は願いを諦めて72歳で出家。それを聞いた院が「院勘を許す気はあったが、出家したからと言って急に許すのもどのようなものか」と言っていたと知り、定家は喜びます。
一方、院は隠岐で書いた「後鳥羽院御口伝」の中で定家の歌を高く評価。しかし言動については…。
京に戻ることを願いながら、後鳥羽院は60歳で崩御。2年後、定家も後を追うように80歳で永眠します。
乙訓に残る足跡
配流の地で37歳の短い生涯を閉じた中院。その御陵が長岡京市金原にあります。かつてその傍には、母の承明門院在子が息子を忍んで建てた金原御堂がありました。その落慶の際、定家は牛3頭を献じ、在子は牛車5両で渡御して円明寺に宿泊しています。
仁治4(1243)年、西山善峯寺で営まれた法会で、経典と共に参加者たちの署名などが阿弥陀如来立像の胎内に納められました。署名には道家や宇都宮頼綱、月輪には後鳥羽院が水無瀬殿で寵愛した尾張局の遺児道覚法親王(以降「道覚」)など定家や院と縁ある名が。この像は浄土宗寺院を転々とし、今は大山崎の大念寺にあります。
頼綱は義父の時政が義時と対立した際に謀反を疑われ、潔白の証に出家。蓮生と名乗ります。その頃、浄土宗の法然らは天台宗などの圧力を受け、後鳥羽院も弾圧へ。法然に帰依した兼実は法然配流に抗議して減刑に奔走。赦免された法然を訪れた蓮生は、浄土宗に入信。法然の死後はその高弟で吉峯寺の証空(西山上人)を師事します。
一方、道覚は天台宗僧慈円(兼実の弟)を師に、承久の乱や父君の配流により証空の元で長期逗留。寛元年間(1243~47)には、父君が尾張局を偲んで建てた水無瀬殿の蓮華寿院を善峯寺に移しています。
おわり
ご協力 大山崎町歴史資料館館長 福島克彦さん
文・絵 オオバチエ
*これまでのお話はこちらから全話ご覧になれます。
【掲載紙面】
【参考文献】
藤原 定家『訓読明月記』第3~6巻 河出書房新社
大山崎町史編纂委員会編集『大山崎町史』大山崎町役場
長岡京市史編さん委員会編集『長岡京市史』長岡京市教育委員会
塙保己一編『群青類従第十七輯 保暦間記』経済雑誌社
矢野太郎編「承久記」国史研究会
和田英松・石川佐久太郎著『増鏡通解改修版』明治書院
『校本後鳥羽院御口伝』和歌文学論読会編・発行
新古今和歌集の部屋『歌論 後鳥羽院御口伝 定家』https://blog.goo.ne.jp/jikan314/e/b843ef5aff866e6a8244b27900208c3d
雪香桜箚記「口訳 後鳥羽院御口伝』9https://plaza.rakuten.co.jp/sekkourou/diary/200604060000/#goog_rewarded
まさこのブログ『御鳥羽院御口伝 一部分』https://ameblo.jp/mamamasako0509/entry-11716296340.html
若井富蔵「山城大念寺の阿弥陀像を論ず」(「史跡と美術 13」)
「宇都宮の歴史と文化財」宇都宮市歴史文化資源活用推進協議会
『日本美術工芸(422)清水善三「慈覚大師の阿弥陀像」』日本美術工芸編・発行
『浄土48 宝田正道「後鳥羽院と御製『無常講式」』法然上人鐟仰会
図録『第23回企画展 水無瀬離宮と河陽宮』大山崎町歴史資料館
図録『中世宇都宮氏-頼朝・尊氏・秀吉を支えた名族』栃木県立博物館 2017年ほか