京都と大阪の府境にある小さな町・大山崎で、リトルプレス「大山崎ツム・グ・ハグ」など印刷物を作っている大山崎リトルプレイスです。このブログでは「大山崎ツム・グ・ハグ」記事を中心に紹介しています。 https://www.o-little-place.com/
今日もリトルプレス『大山崎ツム・グ・ハグ』の制作に励んでます。。。

 僕が最も健康的だったころは、毎日かかさずランニングをしていました。夜ご飯を食べて少し経った20時ぐらいから30分程度、家近くの水無瀬川の堤防の上を、名神高速道路のある方面にぐるっと一周。最後に緑地公園のグラウンドを通って帰るコースを走っていました。このコースが気に入っていたのは、そこから見える山や川の風景が素敵だったこともありますが、何より星空が見事だったからでした。


 その星空に出合う場所は、ちょうど家から堤防に向かうルートの途中にあります。島本町の稀代の銭湯「昭和湯」がある路上に、ふいに街灯が少なくなり、空に星がパッと現れる地点があります。暗くて一人だと怖い道だけれども、見上げると満天の星が輝きます(本当に満天の星!)。僕は隣町の高槻生まれで、そこはそれなりに都会だったので、大阪府内の町でもここまで星が見えるものかと驚きました。初めて通ったときには「うわぁ」と声が出て、首がもげそうなぐらいに空を見上げながら走っていました。


 さらに、誰もいない夜の緑地公園の星空のすばらしさといったら。夜中にグランドの真ん中に立てば、まるで宇宙の中心にいるような気分を味わえます。最近はLEDが普及して、周囲が無駄に明るくなって見えにくくなったものの、当時はより暗く、冬の大三角形などは良く見えました。今も、たまに息子の野球の練習のつきあいで、夜に星を見る機会があります。時期と季節によって見えた、あの「リゲル」と名付けられた星からの光は、863年前に星を出発し、今やっと僕の所に到着して旅を終えたのだと思うと、ロマンが胸にあふれます。


 最近読んだ「人類は宇宙のどこまで旅できるのか(原題:A Traveler's Guide to the Stars)」という本があり、実際に太陽系の外宇宙に出て、他の恒星系に人類を送り込むためのプロジェクトが存在することを知りました。それによれば、現在の物理定説では光速を超えることは事実上不可能で、地球から最も近いケンタウルス座アルファ星(距離約4.3光年)に向かう場合、切手サイズの宇宙船でレーザー照射で進んでも(現在の技術では不可能)、最速で光速の20%が限界なのだそうです。それだとアルファ星まで20年ぐらい。人を乗せる規模の船なら20%など到底不可能で、科学のブレイクスルーが何度も起きたとしても、最低でも200年はかかる予測がたっています。なお、今一番地球から遠い、1977年に飛ばしたボイジャー2号の速度であれば、到達まで7万年かかるらしいです。


 当然ながら一つの世代でたどり着けるはずもなく、宇宙船で子供を産み育て、次世代、次々世代へとミッションをつないでいくという壮大な計画になります。宇宙船は、移住を考えると最低でも1万人を収容できる大きさが必要だとか。SF小説の「ジャンプドライブ」や「ワープ」は、現在の物理学では完全否定されてますので望み薄。正攻法だと空前の規模の計画です。本のキャッチコピー「星間旅行は可能だ、だが猛烈に困難だ」という文句がかっこよくもあり、絶望感も醸し出しています。それこそ国家規模で何世代にもわたる継続性が必要です。気が遠くなりそうですが、あの「サグラダ・ファミリア」だって140年間も建築しているのだから、できないことはない。研究者たちはそう思い本気で別の惑星に行くつもりでいます。


 そんなわけで、最近は遠くの距離と長い時間について考えることが増えました。不思議なことに自分に近いことばかりを考えていると、自分が何をして、どこにいるのかをつい忘れてしまうようです。たまに星や宇宙のことを考えると、心が安らぎます。海を見たり、風景を堪能したり、本を読んだりするのと同じです。


 僕が生まれた時代にはどうあっても他の惑星には行けないだろうけれど、そんな気持ちを潤すSF本ならいくつもあります。僕にとっては本こそが、長いスパンで物事を考えることができるすごい発明品です。本は人類誕生の昔や異世界、未来や深い深層心理の話まで、全てを取り揃えています。僕らが宇宙に行くためにも(行かなくても)、日々の暮らしにも、長い距離と時間を想像することが必要です。自分がどこにいるのかを知っておきたいのであれば。


 夏の暑さでくらくらしておりますが、そんな時には涼しい部屋で本を一冊。遠い未来の人類を思いながら、今日や明日を生きていくために、本を買って読んでみませんか? 何か面白いテーマを決めて。例えば「もしあなたが宇宙船に乗るなら、どんな本を読みますか?」とか。

 

【プロフィール】

おりこのかずひろ

山崎(島本側)在住(19年目)。本屋「プオルックミル ブック」店主。私的山崎観光案内所運営、映画「家路」監督。一児の父。物書きでもあります。

これまでの記事はこちらから

【掲載紙面】
P1
【訂正】紙面で間違いがありました。
プロフィール欄の、
誤》山崎(島本町)在住(15年目)。本屋プオルッカミルブック」店主。
正》山崎(島本町)在住(19年目)。本屋「プオルッカミルブック」店主。
15年目→19年目、店名の前の 「 が抜けていました。
訂正してお詫びします。

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