天王山が大好きで、いろいろな生きものと お友だちのタムさん。天王山の自然のことを みんなに知ってもらおうと作ったお話
僕が住んでいる大山崎には、久保川というちっぽけな川が流れている。天王山の山並みの北側を源流として小倉神社の横を通り、円明寺団地の南側のコンクリートで固められた水路を一気に流れ下って田んぼと畑を通り抜けて住宅地に至り、ビール工場近くのJRの鉄橋で小泉川に合流する。長さは2kmにも満たない短い川だけど、変化に富んで面白い。
団地のそばの久保川に沿って走る道路のガードレールと川の間の狭い地面には、クズやイタドリなどの雑草が道路にはみ出すほど繁茂する。ただ雑草がはびこるだけのように見えるこの場所には、ウマノスズクサというツル草も生えているんだよ。夏になれば、丸い玉に毛の生えたラッパのようなものがくっついた奇妙な形の花が咲くんだ。花が咲く前に草刈りがされなければ、今年も変な形の花が見られるかもしれないよ。
昆虫に葉っぱを食べられないように、ウマノスズクサは有毒な成分を含んでいる。その毒を利用して野鳥などの天敵から身を守る、ジャコウアゲハとういうチョウがいるんだ。
前年の秋に生まれたジャコウアゲハの幼虫は、ウマノスズクサの葉をたっぷり食べてサナギに姿を変えて冬を越す。春になってウマノスズクサが芽を出して葉が茂ると、冬を越したジャコウアゲハのサナギたちは、羽化して葉っぱの裏に卵を産みにやって来る。今年もウマノスズクサの小さな群落に、ジャコウアゲハが乱舞していたよ。親になれば花の蜜を吸うので毒を蓄えることはできないけれど、幼虫の時にウマノスズクサの葉を食べて体内に有毒成分をしっかり溜め込んでいるので天敵に襲われにくいそうだ。
ところで兵庫県の姫路市は、ジャコウアゲハを市のチョウに定めているんだ。理由は、姫路城に使われている瓦の紋がアゲハの紋様であること。それともう一つ、姫路が舞台の播州皿屋敷のお話にちなんだ理由があるそうだ。
播州皿屋敷は有名な怪談話。どんなお話かざっくりと解説すると、女中のお菊さんが管理していた貴重なお皿の枚数が足りないという無実の罪を着せられ、国家老の青山鉄山から責め殺されて古井戸に捨てられてしまう。その後お菊さんは幽霊となり、夜な夜な井戸から現れて怨念のこもった声でお皿の枚数を数えるというストーリーだ。
そんな怖いお話とジャコウアゲハにはどんな関係があるのかというと、サナギの形が後ろ手に縛り上げられた女性の姿に似ているというのだ。それを悲劇のヒロインであるお菊さんの姿になぞらえて、サナギを「お菊虫」と呼ぶそうだ。確かに、ジャコウアゲハのサナギは独特な形をしている。でも、僕には人の姿には見えないなあ。ともあれ、哀れなお菊さんとサナギを結びつけた昔の人の豊な想像力には脱帽だよ。団地の近くの久保川沿いのガードレールには、サナギ本体や羽化した後のサナギの抜け殻がくっ付いているから、興味のある人は探してみてね。
■ジャコウアゲハ
幼虫の食草はウマノスズクサ。オスは黒い羽。メスは全体が灰色の羽。雌雄ともに腹部が赤い。春から秋にかけて3~4回発生する。久保川では、たびたび草刈りがされるので成虫になれない個体
■ウマノスズクサ
多年生のツル草。アリストロキア酸という強い有毒成分を含む。
これまでの「天王山でひと話咲かせましょうータムさんのお話」全話は、こちらからご覧になれます。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
タムさんの本はこちらで販売しています
【春夏秋冬編】 60ページ・文章中心 1,450円
amazon
【春夏編・秋冬編2冊セット】
全ページカラー 春夏編52ページ・秋冬編50ページ イラスト・写真満載 2,380円
Puolukka mill
Pavenature
長谷川書店
手作り雑貨の店hanna
駆ける満月 ウェブショップ
春夏編・秋冬編2冊セット ケース付き
秋冬編・春夏編の表紙
タムさんのお話の朗読コーナーができました!
FMおとくに86.2「koto chika」木曜日8時30分から
季節に合ったお話が1話、朗読されます。
ぜひ、お聞きください。
【掲載紙面】