京都と大阪の府境にある小さな町・大山崎で、リトルプレス「大山崎ツム・グ・ハグ」など印刷物を作っている大山崎リトルプレイスです。このブログでは「大山崎ツム・グ・ハグ」記事を中心に紹介しています。 https://www.o-little-place.com/
今日もリトルプレス『大山崎ツム・グ・ハグ』の制作に励んでます。。。

 夏が近づくと思い出すのは、誰も泳いでいない四角い二十五mプールのこと。家から自転車で二十分ぐらい行ったところにあった市民プールに、小学生の頃の僕はよく通っていました。何しろ一日、子供料金五十円で入れて(ある日値上がりしましたが、それでも百円)、さらに小さな滑り台もある。シュノーケルやビート板はダメだったような気がしますが、浮き輪はOK。サメ風船の乗り物もOK。そんなプールでした。一日遊んでも五十円。今では信じられない低価格です。その中でも特に懐かしく覚えているのは、誰も泳いでいないプールを取り囲むようにしてみんながラジオ体操をしている風景です。朝から既にさんざん泳いでいるのに、一時間に一回、強制的にプールから上がらされて、ラジオ体操をさせられる意味のわからなさ(あれ何だったんでしょうか?)。みんな嫌々水から上がってましたが、実は僕はこのラジオ体操が結構好きで、泳ぐのと同じくらい楽しみにしていました。


 ラジオ体操がなぜ好きかというと、あの異空間になる妙な集まり具合です。それがぐっとくる。ちょうど今、住んでいるマンションは大規模修繕の時期に入っており、マンションがぐるっと足場に囲まれています。たまに職人さんがベランダの外を通って目があったりし、毎日がイベントのようで面白く過ごしています。で、朝、通勤の時間帯に作業員の方々全員でやっているラジオ体操が、やはり異空間です。だいたい三十人ぐらいで、ニュージーランドラグビーの「ハカ」よろしく、ラジオ体操をしているのです。これがどうしても「フラッシュモブ」みたいに見えてくる。ゴミを捨てるフリをしてこっそり「お、はじまったか」と覗き見て、毎朝わくわくしてしまいます。もちろん、工場や現場で働いている人たちは毎朝「今日もかったるいな」なんて思ってそうですが、いつもは無機質な空間で人々がいわば踊っているのを見るのはなかなか異質な感じがして、たまらなく感じ入ってしまいます。市民プールの時もそうだったし、あと、阪急電車に乗っているとたまに見える車両基地の体操も、僕のフェイバリットです。


 そう言いながらも、実は何かしらきっちり揃っているというのが苦手。例えば、あまりにも揃っている行進が苦手。朝礼の並びとか、開会式とか、あとは食器置き場のフォークとか。並びが良すぎると居心地が悪くて、もじもじしてしまいます。


 その点、ラジオ体操の気楽さったらなく、体操がぜんぜん音にあってなくても、誰も何も言わない。そもそも「きっちり合わせろ」って言われたことがありません。昭和の、あのビンタありの体育の授業においてすらなかったように思います。ラジオ体操は、自由の風とでもいいましょうか、それが僕にとってのラジオ体操です。


 そう、自由はラジオ体操ぐらいが丁度良いのです。全てが自由であれば僕にはちょっと重すぎる。ラジオ体操には強い連帯感と目的意識があり、それでいて、だらだらやっていても誰も怒らない。安心できる上に自由。制限ありの自由で、最高です。それはもしかしたら、柵に囲まれた義務教育で与えられた自由と同じなのかもしれませんが。


 もちろん、ラジオ体操には良いことだけでなく、厳しい面がいくつかあります。特に第二体操に入ったところで難易度が跳ね上がり、「片脚跳びとかけ足」や「体をねじり反らせて斜め下に曲げる運動」といった「どう動いたらいいのですか?」という難易度Aを体験できます。


 そういうわけで、今は遠くなってしまったラジオ体操こそが、青春の思い出。あのプールと、もうやってない夏休みの朝に集まるラジオ体操と日誌。あれが僕にとっての、夏の非日常の楽しさでした。今もたまに、テレビでラジオ体操の番組をやっているのを見ますが、僕のイメージはあれじゃない。楽しいだけの幼年時代ではなかったけれど、あの早朝のラジオ体操は好きでした。


 時々、駅近くの公園で年配の方が集まって体操しているのを見ると、内心で憧憬を感じます。僕も健康のためだけでなく、そろそろ自由を感じるための体操をやってみてもいいんじゃないかなと憧れます。ついでに時々、一番後ろでこっそり作業員の方に混ざっても大丈夫じゃないかなと考えています。一人でやるラジオ体操は味気ないですし。ばれたら怒られるかな。


 さて、今朝もやっぱり、子供への付き添いや弁当作りで早起きしております。みなさん、おはようございます。新しい朝、希望の朝、大空仰げ、ラジオの声に。残念ながら今は一人ですが、今日もひとまず腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動からいってみましょうかね。

 

【プロフィール】

おりこのかずひろ

山崎(島本側)在住(19年目)。本屋「プオルックミル ブック」店主。私的山崎観光案内所運営、映画「家路」監督。一児の父。物書きでもあります。

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【掲載紙面】
Vol64_P1_100px


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