天王山が大好きで、いろいろな生きものと お友だちのタムさん。天王山の自然のことを みんなに知ってもらおうと作ったお話
冬になると桂川や淀川は、冬を越すためにやって来たいろんな種類のカモたちでにぎわっている。ほとんどのカモは夏に北方で繁殖し、冬に暖かい南へ移動する渡り鳥。だから夏には、この辺りに冬鳥のカモはいない。でも、一年中見られる野生のカモもいる。日本で繁殖するカルガモだ。
「カルガモ」って変わった名前だなあと前から思っていた。漢字で書くと「軽鴨」。軽いカモ? 名前に「軽」とつくから体重が軽いのかというと、そうではない。カモの仲間では大きい方だ。「マガモより軽いからカルガモと呼ばれる」という説があるそうだが、なんだかしっくりこない。
「野鳥の名前」という本に、「軽」という地名に由来するという説が載っている。根拠は万葉集の天武天皇の皇女、紀皇女の御歌の
軽の池の浦廻行き廻る鴨すらに
玉藻の上にひとり寝なくに
(かるのいけの|うらみゆきみる|かもすらに|たまものうへに|ひとりねなくに)にあるそうだ。この歌の「軽の池」には藻が生えているのだから、季節は夏である。夏にこの池で見られるカモは、冬にやって来るカモではない。一年中そこにいるカモである。それはカルガモしかいない。つまり夏でも「軽の池」で見られるカモだから、「軽鴨」になったのだそうだ。なるほど、そういうことかと妙に納得してしまった。でも、ほんとうの由来はよくわからないみたいだ。
カルガモは、カモの中では珍しくオスとメスがほぼ同じ色をしている。褐色の地味なカモだ。ほかの種類のカモのメスと色合いが似ていてまぎらわしいけど、先端が黄色い黒いくちばしを持つのはカルガモだけだ。慣れれば簡単に見分けられるよ。
春先になると、2羽で仲良く行動しているカルガモがいる。繁殖のために相手を見つけてペアになったんだ。そのときは両方を見比べることで、オスとメスを見分けられるらしいよ。オスはメスよりやや大きく、背中の羽根の色が少し濃いんだって。違いは微妙で個体差もあるため、完全に見分けられるわけではないので注意してね。
5月ごろにカルガモのメスは河川敷などの草地の地上に枯れ草を集めて皿状の巣を作り、10個前後の卵を産む。孵化したヒナはすぐに歩き始め、親鳥と一緒に歩いたり泳いだりする。エサも自分で探して食べるんだ。ツバメのように、親鳥が運んでくるエサをヒナが巣の中で待っているんじゃないんだよ。親鳥のまわりを自由気ままに泳いでいる、小さなヒナたちの愛くるしいこと。でも、最初はたくさんいるヒナたちのうち、翌年まで生き残れるのはわずかしかいない。自然界は厳しいんだ。
カルガモは、近所の川や溜め池で年中見ることができる。人の姿を見るとすぐに飛び去る小鳥と違って、カルガモは水面にプカプカ浮いてじっとしていることが多い。体が大きいので観察するには最適だと思う。図鑑に書いてある特徴をひとつひとつ確認しながら観察してみるのも面白いよ。バードウォッチングを始めようと思っている人は、まずは身近なカルガモの観察から始めてみたらいいんじゃないかな。
【補足説明】
■紀皇女の御歌は万葉集巻3の390番歌
「軽の池」は奈良県橿原市大軽町付近にあったとされる。
歌碑は奈良県橿原市石川町の石川池(剣池)にある。
■カルガモ
日本では全国で繁殖し、本州以南では留鳥。北海道では夏鳥。
河川や池沼、河口、水田、海岸などに幅広く生息。
主に植物の葉や種子を食べる。水中の水生昆虫も食べる。
【参考図書】
これまでの「天王山でひと話咲かせましょうータムさんのお話」全話は、こちらからご覧になれます。
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