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緩急自在の筆さばきで紙面に納まることなく、空や海を自由に駆け巡る龍や鳥を描く、大山崎在住の日本画家・山本あずみさん。教育現場で美術を教えながら国内外で活躍中の山本さんに、日本画家になった経緯や道具、技法などについて伺う第2話目。
京都の嵯峨美術大学造形学科日本画分野に進んだ山本さんは、主に鳥をモチーフとして、骨格や独特の動きなどをダイナミックにとらえた構図で描くことに取り組みました。そうした中で、若冲の絵に目が留まります。「若冲の極彩画と墨絵は、どちらも迫力があってかっこいい。なぜだろう」と疑問を持ちつつ彩色や運筆、材料学、墨画、古画修復の授業を受け、さまざまな色や線の表現方法を学びました。そして、日本画の豊かな色彩で描く極彩色の力強い表現と、墨の濃淡で描く墨画や文人たちが描く南画の柔らかい表現の両方の良さを作品に生かすにはどうすればいいかをテーマに、制作に励んでいきました。
【知り尽くして描く若冲】
伊藤若冲は、錦小路にあった青物問屋の長男として誕生。20代後半から本格的に絵を学び始め、40歳で隠居して画業に専念した江戸時代の画家です。狩野派の画法を学び、独学で中国画を模写し続けたのち、対象物を観察し尽くして描く画法へ。
【胡粉が溶けて一人前】
細かく擂りつぶして膠水で練り、団子にして叩きつけて(百叩き)空気抜き。次に麺状にして熱湯を注いであく抜き。クリーム状になるまで擂れば、完成。
【膠水】
水と絵具だけでは紙などの画面に定着しないため、糊の役目をする膠が必要。膠は動物の皮や骨などを煮詰め、乾燥させたもの。
膠は瓶などに入る大きさに切って、水に一晩浸します。柔らかくなった膠を湯煎して、濾したものが膠水。
【材料の進歩が修復困難に】
さまざまな材料が開発されて誰でも絵を楽しめるようになった反面、その内容が複雑になって何を使って描かれたのかが解明しにくく、修復が困難に。東山魁夷あたりまでの作品が、ギリギリ修復可能な範囲だと言われています。
さて、山本さんは大学を卒業後、文化財修復の仕事や美術講師をする中で奈良のワークショップや墨作りに出合い、墨と和紙の素 そのものの特性と相性から生まれる滲みの美しい表現に面白さを感じます。
教育現場で美術を伝えながら、個展や出展を続けてきた山本さん。くちばしや爪のうろこなどの鳥の形態が好きで、ハシビロコウや鳥を描いていました。しかし、勢いが足りないなと模索。そんな時に再び墨と出合います。 次号へ続く
*山本あずみさんによる日本画のワークショップが、R5年7月30日に開催されます。参加者受付中!
参考文献:狩野博幸「若冲―広がり続ける宇宙」角川文庫/林功・箱崎睦昌「画材と技法」同朋舎ほか

