こんにちは。山崎在住のおりこのかずひろと申します。地元の話や映画や本の話を中心にゆるく語るこのコーナー。
今号は「ゆるキャラ」のお話。
昨年アサヒビール大山崎山荘美術館で開催されていた「みうらじゅん マイ遺品展」がとても面白かったので、心に残っています。最初の部屋にあったペナント&絵葉書コーナーからハート鷲掴みで、にやにやが止まらずに笑いっぱなしでした。みうらじゅんさん本人が「ここの常設、狙ってます」と宣言していましたが、どうなんでしょうかね。いつか、モネの睡蓮の横に等身大みうらじゅんという展示ができるのを期待してしまいますが、あるんでしょうか?(ないか…)。
さて今回の本題、ゆるキャラです。改めてこのみうらじゅんさん命名の「ゆるキャラ」を調べてみると、キャラ三原則というものがあるらしく、「郷土愛に満ち溢れている」「立ち居が不安定」「愛すべきゆるさを持ち合わせている」の三点がゆるキャラの定義とされています。さらに変な使われ方を防ぐために、商標登録もしているそう。言葉一つで津々浦々に影響を与えていて凄いなと思いますが、その影響はひとまず僕には届かず、「くまもんねぇ」という態度で長らく過ごしてきました。それでも、本体(着ぐるみ)に会うと心が躍るもので、ダッシュで抱きつきに行きたい衝動にかられます。代わりに分身たる息子を走らせることで、彼の怯えと引き換えに個人的欲求を満たしたものです。
しかし、そんな僕にもついに「中の人」になる時が来ました。大山崎町のお隣、僕の住んでいる島本町の公認ゆるキャラである「みづまろくん」の存在です。「みづまろくん」は、町のコンペを経て選ばれたキュートな男の子(妖精?)で、隙あらば役所の出す配布物に印刷されて出演し、マンホールもよく見ると絵柄が「みづまろくん」になっており、時々イベントに本人が登場した(着ぐるみです)という情報も寄せられております。デビューして5年、インディーズゆるキャラ「たけのこニョッキ」なる、たけのこが別方向に成長したキャラや、かん太くんという歴史資料館限定キャラとのせめぎ合い(?)を制し、今や島本町内の人気を不動のものとしています。
で、そのみづまろくんの生みの親である高橋さんから、「みづまろくんのお話を作れないだろうか」という依頼を受けました。高橋さんは、みづまろくんをもっと知ってもらいたいという思いでさまざまな企画を実行されています。グッズ制作(通販もある)や、イベントの出演管理などもされていて、その企画の一つとして「お話」を考えており、長らく町役場と内容を吟味していたのですが、なんせなかなか前に進まない。高橋さんは絵の達人ですが、ストーリーメイクは得意ではないこともあり、「それならば同じ町内に住む僕にリライトしてもらってはどうか」と薦められたとのこと。
その話を聞いた時に、僕はちょうどアーシェラ・ル・グインの「いまファンタジーにできること」という本を読んでおり、タイミングはぴったりでした。その本では、ドラゴンや剣士や魔法が飛び交う世界、かわいい動物の話など、それらはレベルを下げた幼稚な読み物ではなく、一般書同様、フィクションとして多くの可能性があると強く語られていました。ル・グインは一般向けのSFだけでなく、児童向けのファンタジーを多数書いています。有名なのは「ゲド戦記」や「オメラスから歩み去る人々」ですかね。タイミングもあり「これはいっちょ、やってみるか」ということで手弁当で引き受けました。
書き出すとスイスイ進んで、あっという間に仕上がりました。予めキャラクターがいて、方向性も確認できていたということもありますが、助けになったのは何年にもわたる「絵本を読まないと絶対寝ない息子」との地獄のトレーニングのおかげで、自分の中に物語ができていたことです。「ひよこちゃんどーこだ?」
「ここ!」 とか、「いやもう百回目やで」とかいう寝落ち必至のあれです。その時に読んだ「よるくま」シリーズや愛読していた「クレヨン王国」など、身に染みたエッセンスが凝縮されたものが出来上がりました。というわけで、残すのは歴史監修だけとなりました。
今回のみづまろくんは、生まれたとされる鎌倉時代付近に旅立つのですが、この時代考察は本格的で、地元の歴史研究家でもあるやぶきさんに歴史監修として参加いただいています。歴史学の先生にも確認する念の入れようで、時代風俗やアドバイスを多数受けています。さらに物語の背景を解説するやぶきさん作成の注釈資料もあり、めちゃめちゃ凝ったものになりました。
絵も当然ながら監修を受け、衣服や被り物、建物の造りや色などは、検証したものをできる限り反映させています。文章の書き直しもやりましたが、絵の方はもっと大変そうで、一大プロジェクト化してきました。これを書いているGW中にも懸命に仕上げをされていますが、いずれも力作ぞろいの絵です。今回は許可を得まして、一枚公開させていただきます。
これほど気合いを入れた物語ですが、結局町公認については許可が出ず、原作者の個人名義で発表するという形になります。まぁ役場的には色々あるんでしょうし、事情が分からんでもないですが、「それってどうなんだ?」という苛立ちはあります。でも楽しんでもらえるのが一番なので、公認だろうが非公認だろうが、僕としては全く文句ありません。ただ残念なのは、絵本などの紙媒体には許可が出ないということです。いやほんと、絵本になるといいのになと思っています。もちろん先のことはわからないので、より良い公開方法を模索中です。
ちなみに打ち合わせの時に「中の人って誰でもなれるんですか?」と聞くと、「練習が必要」とのこと。動きにも特徴があるらしく、中の人は日々のトレーニングが必須らしいです。
さて、最後に告知です。紹介した「みづまろくん物語」は、5月28日(日)に高槻市の安満遺跡公園で行われる「あにまるしぇ」のブースで初披露されます。絵とお話をパネルにして展示予定とのこと。よければご来場ください。僕も楽しみにしています。
【プロフィール】
おりこのかずひろ。山崎(島本側)在住(15年目)。私的山崎観光案内所運営、映画「家路」監督。一児の父。基本的にサラリーマンですが、物書きでもあります。
これまでのお話はこちらから全話ご覧になれます。
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