4月から5月にかけて、野鳥たちは子育ての真っ最中。数年前、天王山の野鳥に詳しい方からエナガの巣を教えてもらい、離れた物陰から望遠鏡で観察したことがある。巣はモミジの木の太い枝が二股に分かれているところにあった。誰もがイメージするような小枝や枯れ草を編んで作られたお椀のような巣じゃない。表面がもじゃもじゃした丸いドーム状の巣だ。遠くてよくわからなかったけど、大きさは大人のにぎりこぶしを二回りくらい大きくした感じだったかな。色は樹皮に似た少し緑がかった灰色。天敵のカラスに見つからないように、樹木の一部としか思えないくらいに巧妙に作られていたよ。
ドーム状の巣の上方にある、横向きに空いた小さな穴が出入り口だ。巣の中の様子は外からは見えない。親がエサのイモムシをくわえて来ると、小さな穴から大きく開いたヒナのクチバシがちょっとだけのぞく。親はそのクチバシに素早くイモムシを入れると、再びエサを探しに飛び立つ。巣の中には十羽前後のヒナがいるはずだ。食欲旺盛なヒナたちを育てるため、親鳥はエサ運びに大忙しだった。
山道に落ちていたエナガの巣を拾ったこともある。巣の外側は袋状になっていて、裂けたところから野鳥の羽毛がはみ出していた。おそらくヒナをねらったカラスに襲われて、破壊されたのだろう。手に持ってみると、ふわふわしてやわらかく、とても軽い。外側の袋状の部分は、コケと白い糸状のものがからまって作られていた。糸状のものはクモの糸やガのマユの糸をほぐしたものらしい。この袋の中に野鳥の羽毛が大量に詰め込まれていた。ふかふかの羽毛が、か弱いヒナたちを優しく守る役目をしているんだ。
小さなクチバシで少しずつ巣材を集め、外側の袋の部分を作るだけでも大変な労力なのに、さらに数百枚もの羽毛を探して巣に運んでくるんだよ。いったい、巣作りにはどれだけの日数がかかったのだろう。こんなにも手の込んだ巣を作るエナガは、本当にすごい野鳥だね。
教えてもらった巣のヒナたちは、無事に巣立ったそうだ。巣立ったばかりのヒナは飛ぶ力が弱く、自力でエサをとることができない。水平に伸びた枝にヒナたちは体を寄せ合い、一列に並んで親鳥からエサをもらう。この一列に密集した状態は「エナガ団子」と呼ばれているんだ。
これまでいくつかエナガの巣を見てきたけれど、僕は一度もヒナたちの巣立ちに出合っていない。エナガ団子も見たことがない。だから、子育ての時期に山を歩くときは、エナガ団子を期待してエナガばかり探してしまう。イモムシをくわえたエナガを見つけたら、つい後を追いかけてしまう。でも、いつも途中で姿を見失ってしまうんだ。残念だけど、今年もエナガ団子を見ることはできなかったよ。
エナガ
天王山周辺では一年中見られる。日本では九州以北の林に分布。尾羽を含めた全長は約14㎝。長い尾羽を除くと、胴体部分はとても小さい。体重は8g程度でメジロよりも軽い。昆虫やクモ、草の種子や木の実を食べる。
長い尾羽を柄杓の柄に例えて「柄長」と呼ばれる。
スマホで「エナガ団子」と検索すると、いっぱい画像が出てきます。とってもカワイイので、ぜひ見てください。
これまでの「天王山でひと話咲かせましょうータムさんのお話」全話は、こちらからご覧になれます。
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