僕がキツネを見かけるようになったのは、天王山のふもとに住むようになってからだ。初めてキツネの存在に気づいたのは2015年の1月、雪が降った天王山だった。登山道に積もった雪の上に、一直線状に点々と残る独特な足跡を見つけた。憧れのキツネが天王山にいることがわかってうれしくなった。それから間もなくして、キツネの姿を見る機会が訪れた。その年の2月のことだ。河川敷にある水無瀬ゴルフ場跡に飛来したコミミズクを大勢のカメラマンと一緒に観察していたとき、突然キツネが茂みから飛び出してきたんだ。しばらく歩きまわった後、再び茂みに入って見えなくなった。とんがった細い鼻、ピンと立った耳、フサフサした長いしっぽは紛れもなく野生のキツネだった。
当時、閉鎖されて1年も経たないゴルフ場跡は、雑草しか生えていない草原だった。ゴルフ場跡にいるハタネズミをコミミズクが狩りをする様子を、堤防の道から大勢の人が見物していた。キツネもハタネズミを捕まえようとして、ゴルフ場跡の茂みにひそんでいたんだろうね。
それからは河川敷を注意して観察するようになり、何度かキツネの姿を見ることができた。桂川の堤防では、子ギツネたちがじゃれあいながら走り回る様子を見たこともあるよ。河川敷で野鳥の写真を撮っている人たちに聞くと、キツネを目撃することはよくあると言っていた。警戒心の強い夜行性のキツネは、昼間でも行動することがあるんだ。山の中と違って平坦で見通しの良い河川敷は、キツネを発見しやすいのかもしれないね。
天王山にはキツネの巣穴があるんだよ。昨年は、そこで生まれた3頭の子ギツネを見た人がいるんだ。今年は子ギツネを確認していないけれど、同じ巣穴で子育てしたんじゃないかな。その証拠に離れたところから双眼鏡で巣を観察すると、巣穴の入り口には新たに掘り出された土が盛ってあり、どこから持ってきたのかわからないサンダルや作業用手袋みたいなものが転がっていた。キツネはくつやサンダルを巣の近くに集める習性があるそうだ。巣から少し離れたところにはサンダルが7個もあったよ。ほかには地下たびとゴムボール、それと羽根の折れたバドミントンのシャトルが落ちていた。はき物はいずれも片方だけで、噛みちぎられた跡が残るものもある。以前にはなかったサンダルがあるので、今年になって持ってきたのだろう。
キツネが盗んできたサンダルの中に、「お母さん」と油性ペンで書かれた薄紫色のサンダルがあった。噛み跡がいっぱいついているので、キツネのお気に入りなのかもしれないね。インターネットで検索すると、くつ泥棒をしたキツネの記事がたくさん出てくるよ。
最近サンダルが片方だけ突然行方不明になって、お困りの方はおられませんか。もしかすると、犯人はキツネかもしれませんよ。キツネは意外と身近にいる動物なんだから。
【補足説明】
■キツネ
この辺りに生息しているのはホンドギツネ。本州、九州、四国に生息。主にネズミ類、鳥類、昆虫を捕食。果実も食べる。
■コミミズク
フクロウの仲間。夏はシベリアなどの北方で繁殖し、越冬のため日本に飛来する。草原でネズミ、モグラなどを主に捕食。
■ハタネズミ
頭胴長10~13㎝、尾長3~5㎝。暗褐色でずんぐりした尾の短いネズミ。河川敷、農耕地、牧草地などの草地の地中に網目状のトンネルを掘って生活している。植物の茎や根を食べる。
記事に載せたサンダル以外にもこんなサンダルやモノがどこかの家から集められてきたようです。心当たりあったりします?
これまでの「天王山でひと話咲かせましょうータムさんのお話」全話は、こちらからご覧になれます。