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北条義時を主人公に、鎌倉幕府内の権力争いを描く今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。お笑い芸人・田中直樹さん演じる九条兼実に続き、いよいよ歌舞伎役者・尾上松也さん演じる後鳥羽上皇も登場し、朝廷内の権力争いも見ものです。
後鳥羽上皇が営んだ水無瀬離宮に頻繁に訪れた歌人・藤原定家とその上司・九条兼実を中心に、儀式儀礼から公私にわたる事件まで、時に今なら炎上しそうな言動も交えて綴られる彼らの日記から、当時の公家社会を垣間見る第2話。
日記といえば、日々の出来事とその感想をつけるものですが、この時代の公家の日記はちょっと違うようです。
公家社会では有職故実1を重んじ、儀式儀礼を確実にこなすことが求められ、そのために公家たちは実施された儀式儀礼を記録して子孫に引き継ぎました。それが「公家日記」でした。
代々、天皇を補佐する役職につく摂関家に生まれた兼実は、その日記や親・兄弟の教えをもとに確実に有職故実をこなした政治家で、自ら『玉葉』という日記を書きました。かたや兼実の部下で、下級官人の家に生まれた定家にはその日記がなく、自ら書き始めたのが『明月記』。二人の日記には、自分の感情や考えなども書かれていて、私たちと変わらないような感情を抱いていたのだと親しみが涌きます。
特に兼実は歴史的事件の中枢にいたために朝廷内での激論が記載されており、歴史経過と人物像がよくわかります。
会議をボイコットしたり「持病」で欠勤したりするくせに、出席すれば場の空気を読まずに正論を吐き、論破する兼実。皆勤賞の「場の空気を正しく読む派」からすれば、「イヤな奴」。ですが、彼の禍根を残さない善後策に「正読派」はぐうの音も出ず…。「以仁王の乱」と義経による「頼朝追討宣旨要求」の会議の記述ではそんな様子が描かれていて、兼実のドヤ顔が目に浮かびます。
今回はそのお話を紹介する前に、定家の上司となる前の兼実とその周辺メンバーについてご紹介。
次号Vol.54(6月30日発行)につづく
【参考文献】
長崎浩「摂政九条兼実の乱世 『玉葉』を読む」 村井康彦 『藤原定家「明月記」の世界』 稲村栄一『定家「明月記」の物語』 橋本義彦『源通親』 樋口健太郎「九条兼実 貴族がみた『平家物語』と内乱の時代」 野口実/編「治承~文治の内乱と鎌倉幕府の成立」 平雅行/編「公武権力の変容と仏教界 」 確永浩子「藤原定家をめぐる歌人たち」ほか
■掲載記事⇩
■Vol.53 P3に掲載