寒波がやって来て、昨夜は雪が降った。朝起きて、窓のカーテンを開けると雲ひとつない快晴。正面に見える天王山では、東の山並みから顔を出してきたばかりの真っ赤な朝日に照らされて、木々の枝に積もった雪がオレンジ色に輝いている。久しぶりに天王山が雪化粧した。駐車場の車や民家の屋根にも雪が積もっているが、積雪はせいぜい1センチくらいの薄化粧。ゆうべの降り方だと、大きな雪だるまが作れるほど積もるんじゃないかと期待していたのになあ。雪が降っても積もることが少ない天王山では、わずかな積雪といえども雪を踏みしめながら登ることができるのは貴重な体験だ。太陽に照らされて雪が溶けてしまう前に、さっさと登ることにしよう。
天王山に雪が積もった時は、長靴を履いて登るんだ。それは岩場などの危険な箇所がない天王山に限ったことで、普通は長靴を履いて登山はしないよ。積もった雪の大半はお昼までには溶けてしまい、登山道がベチャベチャになってしまうから、泥水を気にせず歩ける長靴がぴったりなんだ。でも、大きな欠点がある。山歩きに適したしっかりした靴に比べると、柔らかい樹脂でできている長靴は踏ん張るとフニャリと変形して歩きづらい。そもそも山登りには向いていない。特に下りの坂道では、滑りやすいので要注意だ。それに靴全体が薄っぺらくて冷たいから、靴下を2枚履いて寒さ対策もしなければならない。それでも、靴が泥だらけになって、中に冷たい水がしみ込んでくるよりはずっとましだ。
新雪を最初に踏みしめる登山者になれるだろうと思って、自宅から近い小倉神社から登ることにした。薄く積もった雪の上には、もうすでに靴の跡がある。登っている人の足跡が1名。下りてきた足跡はまだ無い。僕はこのルートの2番目の登山者のようだ。先行者は1名だけなので、登山道に積もった雪は荒らされていない。雪道を歩く楽しさは十分に味わえる。「もう少し多く積もってくれたら、ギュッギュッという雪を踏む音を聞きながら歩けるのになあ」なんて贅沢なことを思いながら、靴底のギザギザを雪に食い込ませるようにして、滑らないようにゆっくりと慎重に登っていく。
いつもは野鳥を探しながら樹木の上の方を意識して歩くのだけれど、雪が積もった日は真っ白い地面を観察しながら歩くんだ。雪の上に残された動物の足跡を探すんだよ。
尾根の道に合流する手前の坂道で、登山道を横切っている動物の足跡を見つけた。犬ぐらいの大きさの丸っこい足跡。タヌキかなあ。倒木の上に積もった雪にも別の足跡がしっかりと残っている。なんだろう。写真を撮って調べてみよう。他にはイノシシかシカの二つに割れた蹄の足跡もあったよ。一番見たかったのは、、雪の上に一直線状に点々と残るキツネの独特な足跡だ。天王山にはキツネの巣穴があり、昨年の4月には3頭の子ギツネが目撃されているんだ。山のどこかにキツネはいると思うんだけど、足跡は見つからなかった。
尾根の平坦な道をたどって山頂に近づいてくると、僕とは反対方向の宝積寺や聖天さんから登ってきた登山者とたびたび出会う。枝に積もった雪も溶けてきて、しずくが雨のようにぽたぽたと落ちてきた。登山道の雪はたくさんの靴に踏まれてなくなってしまった。楽しかった動物の足跡探しは、ここで終了だ。
この冬、あと何回雪が積もるだろう。次回は一番乗りを目指して、日の出とともに登ってみようかな。
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