今年の大河ドラマは、小栗旬演じる北条義時を主人公に、平安末期から鎌倉時代前期の権力争いを描く『鎌倉殿の13人』。三谷幸喜脚本ということで、コミカルな演出は予想通り。そして話の展開は、定説を覆すのか新説が飛びでるのか目が離せません。
さて、この『鎌倉殿』に大山崎界隈ゆかりの人は登場するのでしょうか? 大山崎町歴史資料館館長の福島克彦さんに伺ってみました。
「登場するとしたら、後鳥羽上皇と水無瀬殿でしょう。上皇は、現在の島本町にあった水無瀬殿にたびたび訪れ、歌会や蹴鞠、天王山での鹿狩りなどを楽しんでいます。その歌会に参加していた公家で歌人の藤原定家は山崎に宿泊し、その時の様子や社会情勢を日記『明月記』に書いています。その中には、上皇のひどい悪ふざけぶりや乱痴気騒ぎを批判したり、現代ならネットで『炎上』するようなことを言ったりする場面もでてきます」。
さらに詳しく伺ったり調べたりしてみると、人を気遣って「自分の意見を言わない」といわれる現代日本人のご先祖様とは思えない言動の数々…。
定家は一流歌人として認められる一方で、皇太后からの歌会の誘いに「審査員のレベルが低い」と断る、場の空気を読まずに歌を詠み、後鳥羽院の逆鱗に触れて歌会の参加を禁じられる。また、出世にこだわって就活ならぬ昇活を行ったものの昇進叶わず、昇進したメンバーをみて罵詈雑言を書き連ねる。そして自分が出世できなかったことを直属の、しかも仕事を干された上司に愚痴るなど、なるほど今なら炎上しそうなレベルです。
その上司の一人で、日記『玉葉』を残した右大臣・九条兼実も負けていません。無意味と判断した会議はボイコット。在宅勤務に切り替えた兼実に、後白河法皇が「判断を仰ぎたい」と使いをよこしますが、その内容に「筋が通らない」「ご自分でご判断を」と突っ返すなど、キレッキレの言動で周りを戸惑わせます。
今回のドラマに登場するかどうかはわかりませんが、鎌倉幕府を樹立した源頼朝は、朝廷内の重要ポストに兼実を就かせるよう、朝廷に要求しています。
話はそれますが、大山崎町円明寺にあるお茶屋池と円明教寺のあたりには、かつて「円明寺山荘」という別荘がありました。山荘は、この時代の官僚で頼朝の妹を妻に迎えた西園寺公経が造営。その後、九条兼実の孫で公経の娘婿の九条道家からその息子へと渡り、「九条池」とも呼ばれています。ちなみに定家の2番目の妻は、公経の姉です。
島本町水無瀬にも「皆瀬御所」という別荘がありました。兼実の政敵・源通親が造営した別荘で、「水無瀬殿」はこの別荘を引き継いだ離宮でした。
というわけで、サラリーマン歌人とも言うべき定家や兼実はじめ周辺の人々が「鎌倉殿」の時代をどう過ごしたのか、福島さんの解説を伺いながら彼らの日記をめくります。
*殿上人:天皇の常御殿の清涼殿に昇殿を許された人 *家司:親王および摂関・大臣家などの家政をつかさどる職員
【参考文献】大山崎町歴史資料館『河陽離宮と水無瀬離宮』 大山崎町史編纂委員会/編『大山崎町史
本文遍』 島本町史編さん委員会/編『島本町史 本文遍』 長岡京市史編さん委員会/編『長岡京市史 本文遍1 』 村井康彦『藤原定家「明月記」の世界』 稲村栄一『定家「明月記」の物語』 長崎浩『摂政九条兼実の乱世『玉葉』を読む』 平雅行/編『公武権力の変容と仏教界
』 確永浩子『藤原定家をめぐる歌人たち』
■表紙&P1に掲載