解散から半世紀が過ぎてもなお、人気の衰えを見せないビートルズ。その魅力を私なりに、一側面からだけだが検証する後編。
レコードデビュー以前から、彼らはチャック・ベリーやリトル・リチャード、エルヴィス・プレスリーといった1950年代のロックンロールを積極的にカバーし、ステージで演奏していた。ステージによっては、自作曲より多かったくらいである。これらカバー曲の演奏はデビュー後も続き、毎回一定数の曲がアルバムに収められることになる。他人の曲をカバーする時は、今も昔もリズムやテンポ、メロディ、そして時には歌詞さえも変更し、自分なりに編曲(アレンジ)するのが普通である。しかし、ビートルズが演奏するカバー曲には、それがない。「完コピ」と言ってもいいくらいに原曲を忠実に演奏している。楽器を演奏する方なら解っていただけると思うが、自らアレンジした曲を弾くよりも、原曲をそのまま演奏する方がはるかに難しい。自分はそれを単なる「猿真似」ではなく、先達に対する敬意の表れであると評価する。
しかしある時季から、彼らは往年のロックンロールを一切演奏しなくなる。それは公演活動をやめ、新たな録音方法(前衛的だがポップ)に挑み始めた頃とほぼ同期する。また、デビュー当時には、マスコミの質問に対し、リーダーのジョン・レノンが「30歳になれば30歳の音楽を演奏するだろう」と答えている。つまり、自分たちを導いてくれた礎となる音楽は大切にし、先達への敬意も忘れない。しかし、足枷に感じたときには、躊躇することなく切り捨てる。この潔さが彼らの魅力であり、人気の本質(のひとつ)であることに疑いの余地はない。
歌唱法、楽器やスピーカーの選択、コーラスワーク、コード(和音)進行、録音スタジオの機材、インタビューの受け答えなど、ビートルズには他にも多くの魅力があり、そのテーマ毎に長い論文が書ける。しかし、本当にビートルズの魅力はこれらだけなのだろうか?
これらの理由だけで、我々を半世紀以上にわたって引っ張りまわし、夢中にさせることができるのか? 何十年も考え続けているが、私には解らない。「決して伝説にしてはならない」という、神(あるいは悪魔)の意志とでも言うべき何か特別な力が働いているとしか思えないのだ。
終
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社会保険労務士 楠 木 仁 史
大山崎町下植野宮脇1-22
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掲載紙面⇩
Vol.50のP2-3に掲載