京都と大阪の府境にある小さな町・大山崎で、リトルプレス「大山崎ツム・グ・ハグ」など印刷物を作っている大山崎リトルプレイスです。このブログでは「大山崎ツム・グ・ハグ」記事を中心に紹介しています。 https://www.o-little-place.com/
今日もリトルプレス『大山崎ツム・グ・ハグ』の制作に励んでます。。。
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 アメリカの絵本作家モーリス・センダックの代表作『かいじゅうたちのいるところ』(原題:There the Wild Things Are,1963)は、出版から50余年が経つ今も世界中で読み継がれている大ベストセラーです。

かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダック作 神宮輝夫 訳
冨山房
1975-12-05



 ある晩オオカミのぬいぐるみを着ていたずらを始めた主人公マックスは、罰として寝室に放り込まれてしまいます。叱られても素直に謝れず意地を張り、ひとり泣きながら寝てしまった…と思いきや、部屋中に木々が生え、森になり、海まで現れ、船に乗って遠くへ遠くへ。遥か大海原を航海した先には、怪獣の住む島が。そこで怪獣たちを手なずけたマックスは王様として君臨し、一緒に踊ったり遊んだり楽しく暮らします。なんと痛快な展開!「もうどっかに行っちゃうからね!」。怒られてそううそぶく子どもの気持ちを、そのまんま叶える冒険劇が広がります。

 そもそも、マックスはなぜお母さんに夕食抜きを言い渡されるほど大暴れしたのでしょう。怒られても「おまえを たべちゃうぞ!」と歯向かって、火に油を注いでしまう。意地を張った子どもの姿は、あの日の自分か。誰しも覚えがある場面です。理由は書かれていないけれど、もしかしたら、小さいきょうだいにお母さんを取られたのが悲しかったのかも…そんな想像もよぎります。
 望み通り1年と1日分もかかるところへ出かけ、思い切り愉快に過ごしたはずが、やがてさびしくなって優しい誰かを思い出す。この気持ちも、誰しもわかり過ぎるほどわかるもの。帰りたい。思った途端、遠く離れた誰かさんと一緒にいた場所から懐かしい美味しいにおいが漂ってくる。帰ろう。そうしてまた来た海を渡れば、いつの間にか自分の部屋に戻っている。机の上にはちゃんと夕ご飯があり、まだほかほかと温かい…。ここでわたしたち読者は、マックスの冒険が「空想(ファンタジー)」であったことを理解します。

 『かいじゅうたちのいるところ』は、このような繊細な子どもの内面を世界ではじめて描いた絵本として高く評価され、1964年のコルデコット賞*を得ています。この賞の受賞挨拶の中で、センダックはこう言っています。

 「子どもたちにとって、日常生活の中で普通に見られる、恐怖、怒り、憎しみ、欲求不満などの感情は、制御できない危険な力として感じられるものだ。そうした力を飼いならすために、子どもたちは空想(ファンタジー)に向かう。私の本の主人公マックスも、空想(ファンタジー)によって母親への怒りを解消し、眠くなり、おなかをすかせ、自分自身と和解して現実世界にもどってきます。」(『センダックの絵本論』より要約)。子どもたちが想像力を使って自分の中に芽生えるさまざまな感情と上手く折り合い、柔軟に乗り越えていく過程をこの絵本は描いているのです。想像力は、『かいじゅうたちー』のような良質な空想(ファンタジー)によってつくられ、支えられていくものだとわたしも信じています。

*アメリカで前年出版された絵本の中でもっともすぐれた作品の画家に対して贈られる賞

(プロフィール)
ライター/えほん講師 なが田ゆう子
『絵本とおはなし どんぐりん』として、大山崎中央公民館図書室で隔月水曜日におはなし会をしています。

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