梅雨はうっとうしい季節だ。雨の日が続くと、ジメジメして心にカビが生えてしまいそうだよ。雨がやみ、雲間に青空が見えてくると、やっと近所の自然観察に出かけられる。雨上がりには、僕の大好きなキノコたちがいっぱい出てくるんだ。
この時期、見つけると特別うれしいキノコがキヌガサタケだ。僕がキヌガサタケに初めて出合ったのは、竹林の多い大山崎の住人になってからだ。それまでは図鑑の写真でしか知らない、憧れのキノコだったんだ。
キヌガサタケは、竹やぶに突如現れる大型のキノコ。白くて太い柄のてっぺんに、濃い緑色をした釣鐘型の頭部がある。頭部のすぐ下から、白いレースのような網目状のスカートがふわりと広がっている。初めて見た人は誰もが驚く、キノコとは思えない優美な姿。キノコ好きの人たちからは「キノコの女王」と呼ばれているんだ。
濃い緑色の頭部はグレバ と呼ばれ、粘液状の胞子が付いている。グレバ は美しい女王様にふさわしくない、嫌な匂いがするんだ。この匂いを好むハエなどの昆虫をおびき寄せ、ベタベタした胞子を昆虫にくっつけて遠くに運んでもらい、子孫を残しているんだよ。
このキノコは、地面に半分くらい埋まった卵のようなものから出てくるんだ。ほんとうに落ち葉の中に卵が埋まっているように見えるんだよ。卵は硬いカラではなく、弾力のある膜に包まれている。朝に卵の膜を破って出てくると、わずか数時間で伸び上がり、純白のドレスをまとう堂々とした女王様のお出ましとなる。でも、夕方にはしおれて倒れてしまう。美しい姿はほんの数時間しか見られない、幻の女王様なんだ。
グレバは現地でカット
中はパイプみたいに空洞
柄とレースのスカートを料理
タムさん風キヌガサタケのスープ
中国では、キヌガサタケは高級な食材だ。他のキノコとは全く違う、純白の不思議な姿に不老不死の霊力を感じて珍重されているのだろうか。僕も試しに中華風スープの具材にして食べてみた。きれいな女王様を傷つけないように、慎重に根元の卵から抜き取る。手に取ってみると、大きなキノコなのにとっても軽い。太い柄はスカスカの粗いスポンジ状で、しかも中心部が空洞のパイプみたいになっている。きれいに広がったレースのスカートも重さを感じない。まるで発泡スチロールで作ったキノコを持っているみたいだよ。ベトベトした胞子のついた臭いグレバは切って取り除き、柄の部分とレースのスカートを洗ってスープに入れてみた。スポンジ状の柄はスープがよくからみ、シャリシャリした独特の食感がして悪くない。でもキノコ自体の味は特に感じなかった。僕にとっては、食べるより見て楽しむキノコだね。
【補足説明】
梅雨時期に竹林で発生。
島本や乙訓は他の地域より竹林が多いので見つけやすい。
高さが15㎝くらいになる大きなキノコ。
網目状のスカートが目立つので簡単に見分けられる。
最近、人工栽培ができるようになったらしい。
写真は全てタムさん