エゴノキという木があるんだけど、知っているかな。五月頃に白い可憐な花が枝いっぱいに咲き、夏にはかわいい卵形の実がたくさん垂れ下がるんだ。
葉っぱの先に、小さな筒みたいなものがぶら下がっていることがある。ひとつ見つけたら、他の葉っぱも見てごらん。けっこういっぱい見つかるよ。これはエゴツルクビオトシブミという、小さな昆虫の卵が入ったゆりかごなんだ。
この筒の中には、卵が一つ入っている。ふ化した幼虫は筒の内側の葉っぱを食べて筒の中で蛹になり、羽化して出てくるんだ。手当たり次第に葉っぱを食べ散らかすイモムシとは違って、必要最小限の食料で成虫になる、とてもつつましい昆虫だよ。
葉っぱの上に、黒い豆粒みたいな昆虫はいないかな。よくさがしてごらん。これがエゴツルクビオトシブミの成虫なんだ。こんなにちっちゃな昆虫が、体の何十倍にもなる大きさの葉っぱを器用に口で切り裂き折りたたみ、くるくるっと筒状に巻くんだ。とてもしっかりした丈夫な筒だよ。初めて見たとき、いったいどうやって作るんだろうと不思議に思ったもんだ。オトシブミの仲間は折り紙の名人だね。
エゴツルクビオトシブミって、言いにくい変な名前だ。オスの首が妙に細長いんだよ。それで鶴首って名前をつけられたんだろう。葉っぱの筒を作るのは、産卵する首の短いメスの役目。オスの長い首はなんの役に立つんだろう。メスを獲得するために他のオスと争うためかな。それともメスが葉っぱの筒を作っている間、見張って守るためなんだろうか。もし彼らと会話ができて「長い首はなんのためにあるの?」と聞いたら、なんて答えるだろう。「君たちにはわからないだろうけど、これじゃないと困るんだよ」と言うはずさ。
僕たちにはわからなくても、すべての生き物の姿形には、きっと確かな意味があるんだろうね。
■補足説明
体長6~8㎜の小さな甲虫。
木の葉を巻いて作った筒状のものを揺籃という。オトシブミの仲間には揺籃を地上に切り落とすものと、枝にくっつけて残すものとがある。
エゴノキを身近に見られるところは、聖天さんの上の方にある登山道に面した出入り口のそば、小倉神社の奥の久保川沿いなど。
写真はすべて、タムさん撮影