こどももおとなも 絵本といっしょに
ほっとひといきつけるじかんを
『14ひき』と自然と
地震や猛暑、度重なる台風と、いろいろなことがあった2018年の夏もようやく過ぎ、日毎に秋を感じる機会が増えてきたこの頃です。まちのあちこちに災害の爪痕が残され、まだふだん通りとはいかない方も多いかもしれません。天王山もたくさんの木々が倒れたなりで、痛々しい姿を見せています。北の地に親戚やお知り合いがいる方は、そちらもご心配なことでしょう。お見舞いを申し上げます。
わが家でもわりに大きなウッドデッキがまさかの崩落という災難に見舞われ、いまだがれきの撤去も修理もままなりませんが、風の爽やかさに束の間ほっとしたり慰められたりしています。自然の怖さ見せつけられ無力感を味わっても、人はまた自然に寄り添い、多くのものをもらってやっていくのですね。
自然とともに生きるねずみの大家族を描いた岩村和朗さんの『14ひき』シリーズを読み返すと、あらためてそのことを考えさせられます。四季おりおりの自然の恵みをだいじにいただきながら暮らす多世代のねずみの家族は、祖父母から小さな孫たちまで、おのおのがふさわしい役割を担いながら助け合って毎日を過ごします。14ひきが生活する美しい森にも、もちろん雨の日もあれば嵐の日もあり、そのときどきの苦労がついてまわりますが、知恵と力を出し合い乗り越えていきます。
実は14ひきにも、はじめから今のような暮らしがあったわけではありません。シリーズ第一作の『14ひきのひっこし』を見ると、かつて住んでいた森が荒れ、木々が切り倒され、やむなく引っ越しをせざるを得なかったことが描かれています。怖い目に遭いながらようやくたどり着いたこの土地で、しあわせに過ごせるよう工夫を凝らし、大いに働いて環境を整えます。こうして手に入れたのが、現在の豊かでおだやかな日々なのです。
『14ひき』シリーズはこれまでに12巻が刊行されていますが、どのおはなしをみても、ねずみの家族たちはみんなとても充実した表情をしています。生きていくことはしんどい、されど楽しくうれしいことなのだと、わたしたちに教えてくれます。作者の岩村さんは、この作品のテーマは「自然の恵みに感謝し、家族とともにつつましく暮らすこと」だと話されています。これらの絵本を眺めていると、ゆったりとした心地良さに包まれます。
(プロフィール)
ライター/えほん講師 なが田ゆう子
『絵本とおはなし どんぐりん』として、大山崎中央公民館図書室で隔月水曜日におはなし会をしています