レンジャクという美しい野鳥がいる。北方からやって来て、日本列島で冬を過ごす渡り鳥だ。目のまわりが黒く強調された、キリッと引き締まった顔。クチバシの付け根から目の上を通り、頭の後ろにシュッと突き出た柔らかい筆の先のような冠羽。見慣れた野鳥とは明らかに違う、一度見たら忘れられない個性的な姿をしている。大山崎や島本の市街地へは大好物の木の実を求めて、ナンテンやピラカンサの実を食べにやって来るよ。
写真:タムさん
令和2年2月のこと。近所の住宅のテレビアンテナにレンジャクが群れをなしてとまっていた。レンジャクを見るのは何年ぶりだろうか。久しぶりの出合いがうれしくて、僕は少し離れたところから気づかれないように観察した。
近くの電線にとまっていたレンジャクも合わせると、50羽くらいの群れだったかな。「ヒー、ヒー」とか「チリリリ、チリリリ」と、精悍な顔つきに似合わないかわいい声で鳴いている。この群れには、2種類のレンジャクがいた。尾羽の先が真っ赤なヒレンジャクと鮮やかなレモンイエローのキレンジャクだ。群れにいるのはほとんどがヒレンジャクで、中に数羽のキレンジャクが混ざっていた。この2種類はとてもよく似ているけれど、尾羽の先の色で簡単に見分けられるんだ。
しばらく見ていると、テレビアンテナの群れから1羽がさっと降りてきて、民家の玄関先に植えてあるピラカンサの赤い実をついばみ始めた。それを見て安心したのか、アンテナや電線にいた仲間たちが、先を争うようにピラカンサに群がってきた。鈴なりの赤い実が次から次に丸呑みされてゆく。すさまじい食欲。まるで食べ放題のお祭り騒ぎだ。
しばらく夢中になって食べていたレンジャクの群れは、家の前を通った1台の自転車に驚いて一斉に飛び立ち、近くの電線に移動してしまった。ピラカンサに目を移すと、葉っぱが見えないほど枝にびっしりとなっていた赤い実は、もうほとんど残っていない。たらふく食べたレンジャクたちは、小さな声でささやきながら電線に仲良く並んでいる。食後のおしゃべりを仲間と楽しんでいるみたいだ。でもこのおしゃべりは、ちっとも優雅じゃない。おしゃべりしながら糞をポタポタと落とすんだから。電線の下は糞だらけ。消化されなかった小さな種が、アスファルトの路上に散らばっていた。その後、残った実を食べに来ることはなく、群れは電線から飛び去ってどこかに行ってしまったんだ。
今年も、近所にレンジャクが出現したとの情報が入ってきた。でも、僕が期待していた近所のピラカンサの赤い実は、1月の末までに野鳥にすべて食べられてしまった。他の木の実も、ツグミやヒヨドリの群れがやってきては次々に食べ尽くしてしまっている。めぼしい木の実はなくなってしまったんだ。残念だけど、今年はレンジャクを見る機会が少ないかもしれないね。
写真提供:辻本和美さん
■補足説明
【ヒレンジャク(緋連雀)】
スズメより少し大きい。シベリア東部、中国北東部で繁殖し、越冬のために日本列島に飛来する。東アジアに局所的に分布。
【キレンジャク(黄連雀)】
ヒレンジャクよりわずかに大きい。北半球の寒帯に広く繁殖分布し、越冬のために日本列島に飛来する。
*両方とも繁殖期以外は木の実を好んで食べる。好物のヤドリギの実が多い宇治は有名な観察地。日本に飛来する数は年によって大きく変わり、不規則。
【冠羽】
鳥の頭部に生えている特徴的な長い羽根。
【ピラカンサ】
常緑低木。バラ科トキワサンザシ属の総称。原産はヨーロッパ東南部、アジア西部。
赤い実が付くのはトキワサンザシ。オレンジ色の実が付くのはタチバナモドキ。
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