今号は、愛するラブコメの話です。
ラブコメ
学生の頃、N君という、とびきり映画に詳しい後輩がいました。僕もそれなりに映画を鑑賞していたものの、彼の知識は桁違い。監督や俳優で知らない名はなく、質問するとほぼ即答です。当時はインターネットが存在していない時代だったので、彼の記憶力と知識には度肝を抜かれたものです。N君はイーストウッドの映画が好きで、僕があまり詳しくないジャンルの映画を教えてくれることが多く、彼とたまに話をするのは楽しいものでした。同じサークルとはいえ、学年違いで互いに映画を見るのに忙しい(勉学は?)ので、長い時間話すことがあまりなかったのですが、ある日、部室で意気投合する時間がありました。
その時彼が、「おりこのさん、良いものがあるんですけど見ません?」とビデオテープを差し出しました。「え、それってアダルト的なものですか?」と思いましたが、そんなはずもなく、それは合計540分まるごとコメディ傑作選(全部白黒)でした。ちょうどその頃、僕はヒュー・グラント出演のラブコメにはまっていたところで、その事を覚えていてくれたんだと思います。その日は、僕の個人史における「コメディ覚醒の日」として名高い日となりました。
今でも覚えていますが、そのビデオに入っていたのは屈指の名作ぞろい。タイトルをあげると、「赤ちゃん泥棒」「フィラデルフィア物語」「教授と美女」「ヒズガールフライデー」「モンキービジネス」「素晴らしき休日」です。ロマンチックでありながら、椅子から転げ落ちるほど笑える内容で、既にこの時から「ラブコメ」の手法が萌芽しているのを確認できます。このコメディ傑作選は、後にラブコメを溺愛する大きなきっかけとなりました。好きな映画は何かと尋ねられると、訳知り顔で東欧のシリアスな映画名を挙げますが、実はラブコメなのかもしれません。
そういうわけで、近年のラブコメも見ていますが、最近のものはずいぶんテクニカルで、テーマも多岐にわたっています。この正月には、出産と育児を盛り込む荒業に挑んでいるものもありましたね。しかしながら、スマホの普及で男女のすれ違いを描く事がより難しくなっており、なかなか「これは!」という作品に巡り合えません。未だに僕のベストワンは、「ベストフレンズウェディング」です。この映画では、王子様ポジションにあたる役はゲイであり、単純なハッピーエンドは封印するものの、素晴らしいエンディングを見せつけてくれます。
とはいえ、批評するのは簡単だが作るのは難しい。自分ならどうするかと熱く語る夜があり、絶望的に面白くない案を連発してきましたが、一番ましではないかと思えたものをここで披露したいと思います。
「家が両隣で、幼馴染で好き同士の二人。時は近未来で、相手の感情を把握できる機械を常に身に着けていて、互いに好意があるかどうかが即座にわかる設定。愛の告白は、〝お茶飲む?〟ぐらいのレベルになっている世界。ある日、その機械が一斉に壊れたため、互いの気持ちがわからなくなる。疑心暗鬼になり、過去のラブコメ映画を参考に、一から相手の気持ちを試してみる。やがて機械は修復されるが、二人は機械を起動することを躊躇して…」みたいな話。
もし、また映画を撮る機会に恵まれたら、ラブコメを。できれば歌とダンス付きで撮ってみたいと思う今日この頃です。
【プロフィール】
おりこのかずひろ。山崎(島本側)在住(15年目)。私的山崎観光案内所運営、映画「家路」監督。一児の父。基本的にサラリーマンですが、物書きでもあります。
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